世界一の金持ちでマイクロソフト社の経営者、といえば、誰もがビル・ゲイツ氏のことだとピンとくるだろう。ところが、この「世界一の金持ち」という枕詞が、もはや彼のものではなくなったというニュースが先週報道された。 スウェーデンのビジネス誌によると、自国のIKEAという家具屋チェーン店の創業者こそ金持ちランキング1位だという。 このニュースはただちにIKEA広報により「資産評価に間違いがある」として否定されてしまったものの、このニュースを聞いた一瞬は誰もが「うーむ、それもあり得るなぁ」と納得したことだろう。 日本では馴染みのない名前ではあるが、このIKEAという家具屋は、SONY、TOYOTA、NISSANなどと同様、世界中で知れ渡ってる超有名企業なのである。そしていよいよ日本でも来年半ば、千葉県の室内スキー場「ザウス」の跡地に1号店オープンを予定している。 そこで今日は、このIKEAのサクセスストーリーについて触れてみるとしよう。間違いなく来年の今頃は、「日経XXX」など各種ビジネス誌がこぞってIKEAネタを取りあげるはずだから、みなさんは1年先取りしてウンチクをたれることができるわけだ。
家具屋業界の常識を覆した多国籍展開
まずその呼び方だが、日本語サイトによると日本では「イケア」と発音することになりそうだ。ちなみにアメリカでは「アイキア」と発音する。御国スウェーデンではどう発音してるのかは定かではない。 このことから分かるように、IKEAは多国籍展開をしてるのである。「安くてよいもの」を売りにして、現在36ヶ国に約180店舗を出している。 多国籍展開、しかも安い、というのは、家具屋としてはトンデモなく革新的なことなのだ。というのも家具という商品特質上、かさばるから輸送費がとても高くなるし、それに海を越える長旅を無傷で乗り切るのはとても難しいからだ。ところがIKEAは、創業当初の一社員の思い付きがきっかけで、ものすごいコスト削減と、ひいては外国進出を果たすきっかけをつかんだのだった。
フラット梱包でコスト削減
まだスウェーデンでしか出店してなかった1950年代、その一社員は、テーブルの足を組み立てずにテーブル台の下に貼り付けておけばどうかと思いついた。そうすれば倉庫の場所を取らないし、それにモノの容量が小さくなるぶん輸送費も安くつくからだ。これが今日の「フラット梱包」というIKEA手法に発展した。IKEAにいくと、どの家具もすべて、畳のようなうすっぺらいダンボール箱の中に部品が納まって梱包されてる。それを家に持って帰ってから自分で組み立てるというわけだ。 これはIKEA側にしてみれば、3つのメリットがある。そもそも家具屋なんてのは、組み立てを中心とする労働集約産業なのに、その要の組立作業を客にやらせちゃうのだ。これで、会社側の人件費と製造コストがグッと抑えられる。 そのうえ、薄っぺらく梱包しておくため、倉庫などの場所代、保管代も小さくてすむというわけだ。 また、商品を客の家に運ぶという輸送の問題は、家具屋にとって避けて通れないものだ。ところがフラット梱包を倉庫に積み上げ、それを客が自分の車に積んで帰ってくれることで、この問題がいっきに解決してしまう。輸送にかかる人件費もトラックなどの固定資産もいらなくなってしまうのだ。
客をサプライチェーンの一部にしてしまう
というようにフラット梱包は、本来は家具屋の役割であった組み立て、輸送という部分を客の役割にしてしまうという、とてつもなく画期的なことだったのだ。 これでコスト削減できたのみならず、さらに外国進出も夢じゃなくなった。部品一式を薄っぺらいダンボールに詰めて輸送するのなら、傷もつかないし輸送費も安くつくから、海の向こうへも運んでいける。かくしてフラット梱包は、国外での収益拡大というメリットももたらしたのだった。 はっきり言って以上の話は、これまでいくつものビジネス誌が見せてきた手垢のついた検証である。それじゃあまりにも退屈だし、来年「日経XXX」が取りあげる内容と変わらないはずだから、ここに私の独自と偏見の見解をとりつけることにしよう。なぜIKEAがこんなにも成功してるのか。コスト削減と外国進出による収益増大以外にも、ものすごく明らかなことがある。
耐久財を消費財として提案
それはIKEAの店舗にいくなりカタログをみるなりすれば分かることだ。寝室にしろ応接室にしろ、色鮮やかなセンスのよい家具と小物が配置されてる。しかも都会的な部屋、女の子の好きそうな部屋、季節にあった色合いの部屋などなど、色んなパターンの部屋が店舗内でもカタログでも繰り広げられる。こんなのを見せられた上に、しかもどれも安いときたら、片っ端から試してみたくなってしまう。 そう、IKEAがすごいのは、本来なら耐久財であった家具を、季節ごとやテーマごとで取っ替えひっかえできる消費財として提案してることである。 従来なら家具は、仮に引っ越しても担いで持っていってたし、よほどのことがなければ頻繁に買い換えたりはしないものである。ところがIKEAみたいに安い上に豊富な色デザインが用意されていると、それこそ季節ごとに洋服を買う感覚で買えてしまう。しかもバラバラに分解できるから、自宅の倉庫にぶちこんでおいてまた気が向いたら使ってもいいし、安いから捨てたっていいし人にあげてもかまわない。こんな風にファッション感覚で気軽に消費できるからこそ、1人あたりの利用頻度と出費が上がっていくんじゃなかろうか。 ちなみにIKEAの日本進出は、今回が初めてではない。80年代に出店したのだが、あえなく撤退したという過去がある。そりゃそうだ、あのころ私たちはバブルの真っ只中で、「高くていいもの」を買いまくっていたのだから。ただ、郊外モールに車で出かけていくのが普及したり「安くていいもの」を求める気風が広まった今の状況ならば、今度こそは捲土重来と相成るかもしれない。
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